蝉 * 春…木に寄りて 木より離れず 春の蝉 松蝉や 近く鳴きても 声遠き 松蝉の つたなき声を 遠く聞き 森匂ふ 春蝉遠く 細く鳴き 松蝉の いづこか遠く 二三匹 松蝉の 途切れとぎれの 遠き声 松蝉の 鳴き止むせつな 風止まる 夏…蝉生る 土の産道 こじあけて 小さくも すでに羽もつ 蝉蛹 森の闇 深みて蝉の 羽化まぢか もういいよ 蝉さん早く 出ておいで 脱皮せよ 蝉が古殻 脱ぐやうに 薄翅を 伸ばして終る 蝉の羽化 羽化蝉の 朝日に透くる うすみどり 土闇を 出でてみ空へ 蝉生まる 天つ日に 恋ひ焦がれてや 蝉生まる 蝉声や まだ薄暗き 明けしじま 初蝉や 長雨開けを 告ぐるかに 雨季明けの 樹液濃厚 蝉出づる 初蝉の 小ぶりなりしを いとほしむ 初蝉や 羽に朝日の 透くるほど 初蝉の 羽透き通る 朝かな 蝉殻の 緑に染まる 朝まだき 初蝉の 木の葉隠れに 鳴きにける 暁や 鳥に遅るる 蝉の声 蝉鳴きて 夢尻消ゆる 朝目覚め 降るやうに また湧くやうに 蝉しぐれ 目覚むれば 部屋の中まで 蝉しぐれ 朝床に 聞けばうるさき 蝉の声 森木立 あれば朝より 蝉しぐれ 一木に 五六はゐるか 蝉しぐれ 飛びとびの木々 切れ目なき蝉の声 日がな一日 切れ目なき蝉しぐれ 天空を 聾するほどの 蝉しぐれ (神戸栄光教会) 蝉しぐれ 大聖堂の揺らぐかに 蝉しぐれ 崩れて溶くる 角砂糖 蝉しぐれ 光も風も 飴色に 耳底に はりつき鎮む 蝉のこゑ 耳鳴りの 奥へと沈む 蝉のこゑ 鳴きつぎて 脳にすみつく 蝉のこゑ 閑さや 脳にしみ入る 蝉の声 山里の 音遠ざけて 蝉のこゑ うたたねの 夢のつづきの 蝉のこゑ 鳴きつげど 耳より消ゆる 蝉のこゑ 昼深し 耳鳴りと化す 蝉のこゑ 鳴きやみて 耳奥に残る 蝉しぐれ 蝉しぐれ 近きの止めば 遠きより 切々と 人恋ひをれば 蝉しぐれ 蝉しぐれ 地の果までも 淋しとき 山里の 雨降りやめば 蝉しぐれ 一木の蝉 全山の蝉しぐれ 山寺や 日がな一日 蝉の声 深山蝉 鳴けば空まで うそ哀し 守り子唄 うらの松山 蝉が鳴く 蝉しぐれ 山をまるごと 震はせて 黙祷や うるさきほどの 蝉しぐれ 蝉しぐれ 送る言葉が 胸をさす Widow's Weeds 耳の中まで 蝉しぐれ わが死後も かくも静かか 蝉しぐれ 墓山の 地鳴り空鳴り 蝉のこゑ 誰泣くや 墓地に紛るる 蝉ぞ鳴く 鳴く蝉の 音を加へて 墓静か 石古りて 外人墓地の 蝉しぐれ 真実の 言の葉欲れば 夜蝉鳴く みんみんは 何も見ざると いうて鳴く 諍ひの あとの淋しさ 蝉しぐれ 樹液吸ふ 木の色に蝉 そまるまで 蝉暑し 虫のなきがら 干乾びて 国破れ 耳に蝉声 目に山河 夕蝉や 丹生の無動寺 不動尊 (無動寺) 夕蝉や 石積むのみの 墓ひとつ 山寺の 木に鳴き暮れて 蝉死せり 油紙 めくれるやうに 蝉死せり 大落暉 落蝉はみな 腹を上に 死に蝉の 目玉乾かぬ 夕まぐれ 夕蝉の 腹を見せての 大往生 山寺の 原生林の 蝉木霊 (太山寺) 落蝉の 裏返りてや 空つかむ 境内に 羽のもげたる 蝉むくろ 落蝉や 生きた数だけ 屍なす 死してまで さらす醜態 蝉むくろ 蝉むくろ 半角文字の 行列に 羽根遺す のみになりたる 蝉むくろ 落蝉の なきがら軽ろし 夕山河 俳子 |
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