敗  戦  忌  *

          冬…十二月 八日こぞりて 戦争へ
            開戦日 進軍ラツパ 勇ましく

            開戦日 みんな同じや 安心や
            反対の ひと皆無にて 開戦日
            戦ひに 勝ちていよいよ 時雨傘

            銃前も 銃後も民ぞ 開戦日
            おもしろく やがて悲しき 開戦日

            さざんかや 三八式の 歩兵銃
            学徒征く さざんか坂の ぬかるみを

            さざんかや 人馬は征きて 帰らざる
            さざんかの 散るを急ぎて ちりぢりに

            開戦日 人皮の焦ぐる 臭ひして
            開戦日よりや 亡者の長き列

            殺光/焼光/略光 支那寒し
            満州や 氷りて硬き 兵の糞

            シベリアの 凍土に眠る 捕虜の骨
            極寒の 夜の死なずば 朝は来ず

            霜柱 支えるための 人柱
            戻れてふ 信号はなし 開戦忌

          春…年経ても 戦塵まじる 春の塵
            銃眼をのぞけば 田打の民がゐる

            ふじやまと 桜の国の 負けいくさ
            裸眼より こぼるる花や 闇へ散る

            腰抜けや ラングーンより 春泥へ

          夏…若くして 戦死せしとや 蓮の花
            六月や 二度目の神戸 大空襲

            ゆきゆけど 草むすかばね インパール夏
            六月の 死してバンザイ 峠かな

            玉砕が 玉砕を生む アッツの夏
            玉砕の 血反吐が色や 沖縄忌

            扶桑花 身投げの崖に 投げ入れて
            日本軍 慰安婦マップ 紙魚惑ふ

            水母浮く 水漬きし兵の 魂のごと
            晩夏光 死なば離るる 影背負ひ

            黒焦げの 日の丸弁当 原爆忌 中八句
            夏果てて ロボツト兵が 銃の先

          秋…朕なんじ 臣民に告ぐ 敗戦日
            敗戦日 奇声を放つ 古ラディオ

            こんなにも 堪え忍ぶるに 敗戦日
            敗戦日 つむりがごわぁんと 嘆き鳴る

            焼跡の 空広うして 敗戦日
            里の木々 青々として 敗戦日

            国破れ 耳に蝉声 目に山河 季:夏
            国敗れ 民も破れて 秋山河

            弔ふは 軍馬百万 敗戦忌
            ぬかるみも 熱砂も駈けて 兵馬死す 季:夏

            死さば英霊 死さざれば敗戦忌
            何に耐え 何思ひしか 敗戦日

            手を胸に 国歌斉唱 敗戦忌
            無条件 降伏の日や 秋暑し

            八月や 忍苦が末の 無一文
            八月や 鍋釜すらも 奪はれて

            勝つまでは 欲しがりませぬ 敗戦忌
            地に倒れ 倒れて横に 秋薊

            八月に 死して万歳 骨水漬く
            八月や 三百万の 墓標立つ

            竹槍を突きて 八月十五日
            爆撃に 竹槍かざす 敗戦日

            勝敗は真逆や ミッドウェイの夏 季:夏
            レイテの秋 不沈戦艦 撃沈す
            敗戦日 あとわづかにて 特攻す

            命とて 一銭五厘 敗戦忌
            空薬莢 こめて出撃 敗戦忌

            横並び 敗戦日へは 一直線
            横並び 前へ倣えの 敗戦日
            八月や みんながゆゑに 間違へる

            不見識と 愚か采配 敗戦忌
            影薄き 兵が列なす 敗戦忌

            純情の をのこみな死す 秋初月
            海彼より 骨は戻らず 墓地の秋

            秋風や 雑兵といふ 人柱に
            秋風や 無名戦死の 墓いくつ
            生きをれば 綾あるものを 墓の秋

            秋蔭や 還りこぬ人 待つことも
            蜩や 暮れそで暮れぬ 兵が墓

            祀られて 英霊となる 兵の秋
            墓地の秋 とはに墜ちざる 特攻機

            墓の秋 水兵さんは 齢取らず
            死してなほ 生を終へざる 兵の秋

            八月や 問はず語りの 老寡婦に
            いくさ果て 骨なき墓を 洗ひけり

            ラバウルの 戦死美談と 菊の香と
            秋冷や 還りこぬ子を 待つひとに

            負けしとは 言はぬ親爺の 敗戦忌
            ばらばらの ままの八月 十五日

            八月の 捻じれつ抜ける 弾の痕
            八月の亡霊 白き影をもち

            戦前の 八月が来て 黙深し
            沈黙は 無力な言葉 敗戦忌

            八月や 忘れやすきを 繰り返し
            五年後の 自分に会へる 敗戦忌

            八月十五日だけの 反戦家
            反骨の 心ふにゃふにゃ 秋暑し

            八月の 抜歯が跡の なま疼き
            八月の 行間埋むる 術もなし

            騙されて 騙されてまた 八月に
            八月や 恥骨失せなば 再軍備

            敗戦を 終戦とする 終戦忌
            終戦忌 また戦争が 墜ちてくる

            開戦日 なければいらぬ 敗戦忌
            終戦忌 修して次の いくさへと
            平和なり 開戦の日の 来るまでは

            八月の記憶や 黒く塗りつぶす
            八月や 武勇におごる 者が果て

            今年また 六日九日 敗戦忌
            八月の 重苦しさを 払ひかね

            秋寂ぶや 声なき骨の 眠る墓
            草むすも 水漬くも定め 終の秋


            不戦祈念日 有馬に遺る 袂石
            不戦祈念日 俳子庵にも 袂石

            人権的 兵役忌避ぞ 不戦の日
            賛すれば いくさ狩場の 最前線 季:冬
            不戦の日 宝棒よりも 宝塔を

            紙飛行機 飛ばさば足るる 不戦の日
            草矢うつ われら少年 奇兵隊

            不戦の日 逃げるが勝ちの ゲラダヒヒ
            不戦の日 征かず殺めず 敵持たず

            不戦の日 戦はずして 負けもせず
            寸鉄を 帯びず乱世の 秋を生く

            機銃痕 見つめて誓ふ 不戦の日 (三宮高架橋)
            不戦の日 心に建つる 不忘の碑

            敗戦忌 いくさの愚をば 噛みしめて
            敗戦忌 いくさ諾ふ ことなかれ    俳子

            有馬温泉の袂石(たもといし)

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