寒   鴉  *

       冬…影と来て 影と離るる 初鴉
         初鴉 脚の先まで 濡れ色に

         寒林の 鴉一声 里の朝
         寒鴉 啼きて破るる 峡の空

         声あれど 姿は見せず 寒鴉
         曇天に 影絵のごとく 寒鴉

         逆光に 滲む影なす 寒鴉
         影飛ぶや 影を追ふかに 寒鴉

         空高く 飛びて美し 寒鴉
         目凝らせば すでに影なき 寒鴉

         空高く 鳩追ひつむる 寒鴉
         鳩狩れば 骨まで喰らふ 寒鴉

         寒鴉鳴けば 鳥どち総崩れ
         寒鴉 鬼だけがゐる 鬼ごっこ

         寒鴉 自慢するかに 水浴びて
         寒鴉 おそれて騒ぐ 里雀

         野の果ての そのまた果ての 寒鴉
         鴉啼く 寒の刺客の 影宿し

         金色の 羽根の衣まとふ 寒鴉 イソップ寓話『虚飾で彩られたカラス』より
         羽根の衣を ぬげば漆黒 寒鴉

         鳥王に 選ばれざりし 寒鴉
         羽根黒くして 白日の寒鴉

         色に色 重ねて黒し 寒鴉
         ゴミ袋 破りてあさる 寒鴉

         俺のこと 阿呆と嗤ふ 寒鴉
         嗚呼ああと 嘆くでないぞ 寒鴉

         寒鴉 世に容れられぬ 声で啼き
         身を隠す 茂みもなくて 寒鴉

         寒鴉 鳴けば影飛ぶ 無縁墓地
         寒鴉 啼けば凶呼ぶ 風立ちぬ

         声嗄らす はしぶとがらす 寒鴉
         目で撃てば たちまち逃ぐる 寒鴉

         だみ声を 残して去りぬ 寒鴉
         逃げ迅し 影置き去りの 寒鴉

         目凝らせば すでに影なき 寒鴉
         夕暮れの 空の余白を 寒鴉

         声もなく 落暉追ふかに 寒鴉
         里山の ねぐら遠しか 寒鴉

         夕暮れに 尖る鳴きごゑ 寒鴉
         夕空の 暗きへ急ぐ 寒鴉
         落日の 空に紛るる 寒鴉

         羽根ひとつ 残して去れり 寒鴉
         寒鴉 抜け羽根すらも 艶やかに

       春…春眩し 鴉の羽に 艶出でて

       夏…餌ねだる 声しはがれて 鴉の子
         日あたりて 別れ鴉の 羽の艶

         朱夏さなか 鴉一声 まち焦がす

       秋…子を思ひ 別烏の 鳴くぞえな   俳子





          秋の鴉(嘴を横にして餌を食べている)

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